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東京高等裁判所 昭和59年(う)1423号 判決

本籍・住居

千葉県印旛郡本埜村大字将監三五〇番地

会社役員

小林三好

大正一二年一月二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五九年七月三〇日千葉地方裁判所が言い渡した判決に対し、検察官佐藤勲平出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月及び罰金四七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官五味朗名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、弁護人小林孝二郎名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、原判決は、被告人に対し二年を超える期間の労役場留置を言い渡した点において法令の適用を誤ったものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

そこで、検討すると、原判決は、判示各所得税法違反の罪について、それぞれ懲役刑及び罰金刑を併科することとしたうえ、刑法四五条前段の併合罪の罰金について、同法四八条二項により右各罪の罰金を合算し、その金額の範囲内で被告人を罰金四七〇〇万円に処し、同法一八条三項によりその換刑処分として金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、労役場留置期間を約二年七か月になるよう定めたことが明らかである。ところで、刑法一八条三項によれば、罰金を併科した場合においては三年以下の期間労役場に留置することができる旨規定されているけれども、右条項にいわゆる罰金の併科とは、併合罪につき同法の四八条二項を適用して一個の罰金刑を科す場合のことではなく、併合罪でありながら同法四八条二項の適用がないため数個の罰金刑を科す場合及び確定裁判の介在により併合罪関係がないため各罪ごとに数個の罰金刑を科す場合を指称するものと解されるから、本件は同法一八条三項の「罰金ヲ併科シタル場合」には該当しないことが明白である。そうすると、本件において被告人を労役場に留置できる期間は、同法一八条一項により一日以上二年以下であり、換刑処分の換算率もそのように定めなければならないのに、原判決が前記のような換刑処分を言い渡したのは、法令の適用を誤ったものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により被告事件について更に判決する。

原判決が認定した事実に法律を適用すると、原判示第一、第二の各事実は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、罰金刑につき同条二項を適用したうえ、それぞれ懲役刑と罰金刑を併科するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加算をし、罰金刑については、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金四七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、なお、犯情を考慮し、同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 裁判官 小田健司)

昭和五九年(う)第一、四二三号

○ 控訴趣意書

所得税法違反 小林三好

右被告人に対する頭書被告事件につき、昭和五九年七月三〇日千葉地方裁判所刑事第二部が言い渡した判決に対し、検察官から申し立てた控訴の理由は、左記のとおりである。

昭和五九年一〇月六日

千葉地方検察庁

検察官検事 五味朗

東京高等裁判所第一刑事部 殿

原裁判所は、罪となるべき事実として公訴事実と同一の事実を認定した上、「被告人を懲役一年六月及び罰金四、七〇〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。」旨の判決を言い渡したが、右判決は、二年を超える期間の労役場留置を言い渡した点において法令の適用を誤った違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れない。

すなわち、原判決は労役場留置に関し刑法第一八条第三項を適用しているところ、同条項によれば、罰金を併科した場合においては三年以下の期間労役場に留置することができる旨明定されているが、右条項にいわゆる罰金の併科というのは、同法第四八条第二項の適用により一個の罰金刑を科す場合のことではなく、併合罪でありながら同法第四八条第二項の適用がないため数個の罰金を科す場合及び確定裁判の介在により併合罪関係がないため各罪別に数個の罰金を科す場合を指称するものと解すべきであり(名古屋高等裁判所昭和四〇年一一月三〇日第四部判決・下級裁判所刑事裁判例集第七巻第一一号二、〇三四頁、東京高等裁判所昭和五五年一二月二四日第一刑事部判決・東京高等検察庁編裁判速報二、四八二、同裁判所昭和五六年九月二五日第一刑事部判決・東京高等検察庁編裁判速法二、五三六)、本件は、刑法第一八条第三項の「罰金を併科したる場合」に該当しないことが明白である。したがって、本件において被告人を労役場に留置できる期間は、刑法第一八条第一項の規定により二年以下であり、罰金刑の換刑処分は、一日六万四、三八四円以上でなければならないのに、原判決がこれを一日五万円と換算し、被告人を約二年七か月労役場に留置する旨言い渡したのは、法令の適用に誤りがあって、その誤りが判決に影響を及ぼすことら明らかである。

よって、原判決を破棄し、更に適生な裁判を求めるため、本件控訴に及んだ次第である。

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